他社との違い
2011年以降、かんくう建築デザインでは「建築主・設計者・職人の三者が喜ぶ仕組み」で家を造っています。
その仕組みはお客さんにとって大きなメリットになるだけでなく、
大工さんをはじめとする職人さん達にとっても大きなメリットになる仕組みです。
以下、その内容を書いておりますので、読んでいただけると幸いです。
2012年5月 初書き 以降随時変更・修正
1.頭をぶん殴られた気がしたあの日
2010年以前の話ですが、ある工務店で同じ大工さんに4棟ほど建ててもらったことがあります。
その大工さんはとても腕が良く、仕事も丁寧な当時50代前半の方でした。
私はその大工さんから、小屋組みの提案や強度的に向上する木の組み方など、様々な事を教わりました。
家を建てる場合、通常2~3人の大工さん達が組んで仕事をしていますが、その大工さん以外皆60代です。
2005年頃になりますが、その大工さんが働いている現場で、何気なくこんな質問をしてみました。
「伝統的な木組みを知っていて、丸太から手刻みで加工する技術も持っているのに、何でそれを若い大工さんに伝えないんです?若い大工さんを入れたらいいのに。」と。
するとこんな答えが返ってきました。
「今の工務店は人を育てるだけの日当をくれん。だから雇えん」と。
その答えを聞いた時、頭をぶん殴られた気がしました。
それ以来、どうすれば若い職人を育てる事が出来るのか、考え始めました。
大工を目指す若者に一から技術を教えていくのには時間とお金がかかります。しかしその費用が丸々上乗せされて工事費が上がったのでは、お客さんにとって喜ばしいことではありません。
お客さんにも喜んでいただけ、大工さんをはじめとする職人さんも喜ぶ仕組み、言うなればみんなが喜び、みんなにメリットがある仕組みでないと長続きしないと思っていましたので、そのような仕組みの家造りはないものか、と考え始めたという訳です。
2.相反する3社見積り
先に進む前にみんなが喜ぶ家造り、私達はこれを「みんなが笑顔になる家造り」と呼んでいますが、ふとしたきっかけでその仕組みを思いつくことが出来ました。
まずは2011年に2件のリフォームを行い、2022年2月現在まで新築を28件、リフォームを15件程、行っています。
この仕組みについて説明するのは簡単なのですが、内容をよりご理解いただくため、又この仕組みを思いついたきっかけ、そして現在の大工さんをはじめとする職人さん達の仕事環境について書きたいと思います。
これまで私達の事務所では、家の最終図面が出来上がった段階で、「いい家をお安く」という考えのもと、基本的に3社程度ハウスメーカーや工務店(以下施工業者)に見積りを依頼していました。 そうすることで価格競争を促してきましたが、それはお客さんにとってコストダウンという面では良い事であっても、現場で働く職人さんの収入や技術の継承・育成という面で考えると、はなはだ疑問です。
それは何故か。安い価格で請け負った施工業者の埋め合わせは、職人さんの収入の圧迫という形で賄われている事が多いからです。
そうなるとお客さんにとっては喜ばしい事でも、職人さんにとっては喜ばしい事ではない、という相反する構図となってしまいます。
ましてや若い職人さんを育てることなど、とうてい無理というわけです。
前述した通り、お客さんも喜び、職人さんにも喜んでもらえる、関係者皆が喜びあえる家造りを目指していましたので、3社見積りを取る時でも、ずっと心に何か引っかかるものがありました。
3.職人さんへの質問
この「みんなが笑顔になる家づくり」の仕組みを思いついたのは、ある増築工事の見積り依頼がきっかけでした。 2010年、和室1間の増築とリフォームのお話を頂いた時、小規模な工事ということもあり、3社見積りではなく友人の大工さんに見積りを依頼しました。 しかし、その大工さんはちょうど手が空いていなかったので、知り合いの大工さんを紹介してもらうことになりました。 「昨年大工仲間4人で工務店を始めたやつがおるよ。そいつを紹介する。色々な所で修行してきとるけえ腕もいいし、木や木組みのことをよく知っとるよ。」という事で、その大工さんと会うことになったのがきっかけです。
初めて会ったのは、とあるファミレス。増築+リフォーム工事内容の説明をした後、余談でこれまで疑問に思っていたことを聞いてみました。以下、羅列してみます。
- 「大工さんって自分が手がけた家の完成した姿を見ることある?頑張って手がけた家、
完成した姿を見たいと思わん?」 - 「最近お客さんと大工さん、コミュニケーションとってはいけん流れになっとるけど、
寂しいと思わん?」 - 「お客さんから、いい家を建ててくれてありがとう、と言われたことある?」
- 「子供に、この家はお父ちゃんが建てたんで、と言いたくない?」
- 「完成した家のお引渡しの時に立ち会いたいと思わん?」
と。
何故こんな質問をしたのかといいますと、最近の家造りについて、ずっともやもやしたものがあったからです。4.職人さんの現状
現在ではご存知の通り、ハウスメーカーや工務店にお願いするケースがほとんどです。しかし、本当に手を動かして造っているのは職人さん達で、その職人さん達は施工業者の社員ではなく、下請けとして働いているということはご存知でしょうか?
現在、一般的な家造りは、施工業者が家一軒受注する度に、大工さんや左官屋さん・クロス屋さんなど様々な職人に、一軒いくら、日当いくら、で仕事をしてもらっています。
近年、このような仕組み、いわゆる下請けでやっている職人さんに「やりがい」というものが無くなってきているのではないか、又その家に住むお客さんのために、というよりも、元請である施工業者の方を向いて仕事をするようになってきているのではないか、と思っていたため、上記のような質問をしてみたわけです。
現在の職人環境といいますと、
- 日給は安くなる一方
- 近年の安値競争のため、職人にしわ寄せがきている。
- 完成した家を見ることがない
- 大工工事が終わるとクロス工事や塗装工事が始まるため、次の現場に向かいます。これは工事の効率化を図るためです。
- お客さんとのコミュニケーション禁止
- お客さんと仲良くなると「お願い、ちょっとここに棚を作って」等言われやすくなります。その場合、材料費等かかった費用は請負契約を結んだ元請が負担することになってしまうので、とても嫌がります。
このような現場、何か寂しくないですか。 どんなに頑張っても本当の意味でお客さんの顔を見ることなく、又完成した家を見ることが出来ないなんて…。
5.コミュニケーションの重要性
私達は職人さんとお客さんとのコミュニケーションは非常に大切なものだと思っています。
図面では分からなかったものが、だんだん家らしくなってくるにつれて「ごめん、ここに飾り棚作って」、「お願い、ここに家の鍵や印鑑を置きたいけえ、小さな収納ボックス作って欲しい」等、絶対に出てきます。普通の大工さんであれば、その要望に応えてあげたいはずです。
しかし、そういった要望を避けて通る仕組みって、なんか寂しいと思いませんか。
そういえば以前こんなことがありました。
棟上が終わっていよいよ明日から本格的に大工工事が始まろうとしている時、工務店の現場監督からこう言われました。「1週間ほど現場を空けます」と。
それはそれで工務店の段取りもありますので、特に気にしてなかったのですが、その一週間後8名の大工さんがやって来て一斉に工事を始めました。
現場に行くとあれよあれよという間に出来ていきます。そして一週間ほどバタバタと工事し、今度は3週間ほど空きました。
そして又8名の大工さんがやってきてあっという間に工事をしていきます。お客さんは現場に来ることが出来るのは日曜日のみ。コミュニケーションも何もあったものではありません。
お客さんにとっては一生に一度の家造り。少しは大工さんと話をしてみたかったはずでしょう。
また少しずつ形になっていく家を楽しみたいと思っていたはずです。大工さんも直にお客さんと話し、お客さんの小さな要望に出来る限り応えたいと思っていたはずです。
しかしお客さんが家造りを楽しむ時間や、些細な要望を叶えてあげる前に、壁は作られクロスを貼る段階になってしまいました。この段取りを考えるのは施工業者です。
確かに作業効率を高めることによってコストダウンを図る事は大切なことだと思います。
しかし何か大切なものを置き忘れているような気がしてなりませんでした。
6.職人さんのやりがいについて
このような状況が続くと、職人さんにとっての「やりがい」というものがなくなってくると思いませんか。「腕のいい大工になりたい!」と思って一流の大工を志しても、 安い日当で働かされ、完成した家も見ることが出来ず、お客さんとのコミュニケーションも禁じられる…。
その結果として当然のことながら、責任感を持って仕事をしない職人が増えてきてしまいます。「安い日当だから」「お客さんと話をしたこともないし」、「自分で責任取るわけじゃないから、これでいいか」等。このままでは「自分の持っている職人技術でいい家を造って、お客さんに喜んでもらう」という根本的な部分を見失ってしまう、可能性があります。
もちろんこの状況はお客さんにとっても私達にとってもよくありません。 設計段階でとことん話し合い、何度もプランを練り直し、CGも作成した夢いっぱいの家が、職人さんの責任感の欠如によって満足いかない家になるだけでなく、場合によっては欠陥住宅になってしまう。
結局どんなにいい設計をしても、現場で台無しになってしまうというリスク。
この状況はなんとしても避けなくてはなりません。
ではどのようにすれば職人一人一人が責任感を持って仕事をし、子供に胸を張って「この家お父ちゃんが建てたんで」と言えるようになるのか。 大工さんが「近くに来たのでちょっと寄らせてもらいました」と笑顔で訪問出来る人間関係を築く事が出来るのでしょうか。
7. 余分な経費は省く
職人さん達の仕事内容は想像出来ると思いますが、ハウスメーカーや工務店など、一般的な施工業者の社員さん達は、どのような仕事をしているのでしょうか。
ちなみにおおまかな構成を書きますと、社長・現場監督・設計者・営業マン・住宅ローン提案者・事務員(経理)で構成されています。
社長は会社の最終的な責任者、現場監督は工程管理や材料発注、職人の手配等が主な仕事です。設計者、営業マン、住宅ローン提案者、事務員(経理)の仕事内容はお分かりでしょう。
その施工業者としての役割をかんくう建築デザインと大工集団とで分けてみると色々な事が見えてきました。
かんくう建築デザイン
の役割
- 営業(ホームページ、SNS等)
- プラン作成
- 設計
- 現場監理
- 住宅ローンのアドバイス
- 完成後の定期点検
- アフターフォロー
大工(職人)集団
の役割
- 実際の工事
- 現場監督
- 材料発注
- 工程管理
- 完成後の定期点検
- アフターフォロー
このように一般的な施工業者の仕事内容を2つに分けてみました。
簡単に言えば、考えるのはかんくう建築デザイン、手を動かして造るのは大工集団、という訳です。ちなみに営業マンはいませんし、住宅展示場や広告はありません。
なお職人さんだけの集団で大丈夫なの?と思われるかもしれませんが、ご安心ください。
かんくう建築デザインがいつもお願いしている大工集団には、2012年に建設業の許可を取ってもらい、社長そのものが大工さんではありますが、組織的に一般的な工務店(株式会社)になってもらいました。
8.保証やアフターサービスは?
ここで心配になるのが、「規模的にも小さいその工務店は、保証やアフターサービス等は大丈夫なのか?」ということです。
その辺りはご安心ください。大工集団といっても工務店ですから、他の施工業者と同じように、家が完成するまで保証する一般的な保険の他に、10年保証や工事保険等も入っています。
又、アフターサービスですが、かんくう建築デザインのシステム通り、1年・2年・5年・10年という区切りで、定期点検させてもらっています。
では大工集団だったのが工務店になることで、何が変わるのでしょうか。それは大工の仕事内容が増えたこと。これまで通り手を動かして造るだけでなく、一般的な施工業者同様、現場監督としての仕事や工程管理・材料発注、アフターフォロー等の仕事が増えました。
ちなみにかんくう建築デザインの仕事内容は変わりません。
しかし、これまで元請である施工業者を通さずに、直にお客さんと話し合うことが出来るだけでなく、最後まで責任感を持って仕事をした上でお引渡しの時も立ち会える事は、職人さんにとって何よりも変え難い喜びです。
しかも自分達で工事金額を決定し、お客さんと直に工事請負契約を結ぶことが出来る為、日当いくらという計算ではなく、若い大工を育てる時間や費用も、自分達で計画的に作り出すことが出来るようになりました。
9.お客さんにとってのメリット
ではお客さんにとってのメリットは何になるのでしょう。
それは工事費を1~3割下げることが出来た事です。
2011年4月、大工集団の工務店に3DKのマンションの全面リフォームの見積りをお願いしたところ、出てきた金額に驚きました。
これまでの経験で、工事費は800万円程度だと思っていたのが、450万円。
その時に思いました。経費率が一般的な施工業者と違うのだと。
そして2011年10月には新築の見積りをお願いしました。以前同規模で同じような性能、仕上げの家を設計したことがありましたので、その時の工事費から坪単価を計算し、お客さんに概算として提出していた工事費は2,300万円。しかし大工集団の工務店から出てきた見積り金額は1,850万円。
いったい何故大工集団の工務店に依頼すると、こんなにも安くなるのでしょうか。
これまでの一般的な家造りでは、大工さんやクロス業者、左官職人など、それぞれが工務店に提出した見積りの合計金額に2~4割の工務店側の経費をのせてお客さんに提出をしています。
その2~4割の中には、社員の給料や会社経費、広告宣伝費等が含まれています。
ちなみに、各職人さん達が提出した工事金額の合計を2,000万とします。施工業者の経費が2割の場合
2,000万×1.2 = 2,400万
施工業者の経費が4割の場合
2,000万×1.4 = 2,800万 この400万と800万が施工業者の経費となります。
10.無理せずコストダウン
では、新たに提案している家造りの仕組みはどうなるでしょう。
大工集団といっても工務店ですから、家の品質を保証するための費用や工事の保険費用、もちろん事務的な経費もかかります。この辺りは一般的な施工業者と何ら変わりないのですが、違うのは全員が大工であるため、原価である
2,000万の中に、自分達の給料も入っているということです。
そうなると、2,000万以外に必要となるのは、品質保証や保険費用、事務的経費、そして次に繋がる若い大工を育てる費用などです。その金額は合計すると、ざっと0.7割(7%)。
大工集団の工務店経費は0.7割なので
2,000万×1.07=2,140万となります。
いかがでしょうか?一般的な施工業者にお願いするよりも260万~660万工事費を落とすことができます。
ここで一番お伝えしたいことは、無理をせず合理的にコストダウンが出来ていること。
そして何よりも、誰も悲しませることなくコストダウンが可能になったことです。
それだけではありません。
職人さんに仕事のやりがいや、やる気をおこさせ、若い職人さんも育てる事が出来るようになりました。これはお客さんにとっても大きなメリットなのではないでしょうか。
11.最後に
何故この仕組みが上手くいくようになったのでしょうか。
それは今の若手大工さんの勉強はもちろんの事、コンピューターを使い、CADも使えるようになったことが大きな要因です。
設計図から、より詳細な図面である施工図をおこしたり、エクセル等を使ってお見積りを作成したり、メールを使って材料を発注したり…。
これまで職人さんが苦手意識を持っていた部分を自分達で克服し、現場監督としての役割も出来るようになった結果、この仕組みが上手くいくようになりました。
もちろん、ここまでくるのには相当な努力が必要でした。しかし、その努力した分、より責任感を持って純粋な気持ちで仕事が出来るようになっています。
以上が「みんなが笑顔になる家造り」の全貌です。この仕組みを考え作りあげるまでには時間がかかりましたが、ようやくここへたどり着くことが出来ました。私達がずっと抱いてきた、無理をせず、誰も苦しめることもなく、お客さんも含めてみんなが喜ぶ家造り。
このような家造りはいかがでしょうか。
ちなみに大工さんは言っています。
「下請けの時より収入が増えた」 そして
「以前よりやる気が湧いた」と。
この長文を最後まで読んでいただき、大変ありがとうございます。
一般的な設計事務所とは?というページにも詳しく載せています。ぜひご覧ください。